芸術の本質についての信念

19世紀初頭のドイツ、芸術の本性に「生き生きとした力」を認めようとする潮流があった。それは、目に見える自然の奥底で迸る「根源的な自然の能産性」から汲み取られるものであった。この力に与ること、この力を模倣すること、これこそ芸術が使命とすること…

『神曲』:感想①

ダンテ『神曲』(完全版 平川祐弘訳 河出書房新社 2010年)読みました。 非常に面白かったのですが、読み返してみると、一読後の印象とは異なった面白さが次々と見出され、これらを統一的にまとめあげるのは難しいため、幾分か断片的な記述になってしまうと…

『ユリシーズ』覚え書き

ジョイスの『ユリシーズ』について思いついたままに書いていこうと思います。 『ユリシーズ』という小説はホメロスの『オデュッセイア』を下敷きに書かれている。約2500年の時を経て、寝取られ亭主と若き耽美的神学者を主人公にした物語に蘇る大英雄の冒険譚…

文学理論:「方法なき方法」についての試論

小説を書くときに、皆さんはどういったことをあらかじめ考えてから書き始めるでしょうか。世界観、舞台設定、キャラクターのプロフィール、物語の展開図、断片的情景のメモ、文体の構造、などなど、作者によって実に様々なことが前提とされていることでしょ…

プラトンの詩人批判について

プラトンの詩人批判にはおおよそ次の二つがある。 ①イデアという理想世界がまずあって、現実世界はその劣化コピーであるから、その現実世界を写しとって表現(ミメーシス)する詩人は、二重の劣化を抱えている。 ②詩人が詩を詠うときは、狂乱状態にありなが…

‘Ghost Under the Light’について

‘Ghost Under the Light’ The tendrils of my hair illuminate beneath the amber glow.Bathing.It must be this one.The last remaining streetlight to have withstood the test of time.The last yet to be replaced by the sickening blue-green hue of …

虚構作品の登場人物に自由はあるのか?

去年の冬頃から、「虚構作品内の登場人物に自由はあるのか?」という問いに縛られている。今さらになって基本的なことが確認できたのでメモ書き程度にここに記しておきたいと思う。 ロラン・バルトが「作者の死」を宣言したことは有名である。これによれば、…